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16S rRNA
2025/12/3
[微生物入門]多くの微生物は狙っても増えないらしい

[微生物入門]多くの微生物は狙っても増えないらしい

はじめに

どうも!キャピラリストです。前回微生物は至るところにいるという話をしました。今回は至る所にいるしなんだったら掃除しないとカビとかすぐ生えてくるし、微生物って増殖能力高いんじゃないかって思うかもしれませんが、微生物全体で見ると実は微生物って狙って増やそうと思うと結構難しいんだぜっていう話をします。

ほとんどの微生物は狙って増やすことができない

そんな至るところにいる微生物。しかし、ほとんどの微生物は実は狙って増やすことができません。日常的にカビを見かけることがある反面これは受け入れ堅い方もいるかもしれません。しかし、カビは微生物界の多くのグループの中の一部(真菌類)であり、私たちが身近に見るのはそのほんの一部にすぎません。地球上には記載されている微生物だけで数万種以上あり、実際にはその何百万~何億、あるいは何兆倍もの多様性があると推定されています。 Andrew D. Steenの研究では、49,000種類に相当する微生物の配列のうち、既に培養されている微生物と"ほぼ同じ種類"と判断できるものは 5% 未満でした[1]。 (※微生物の分類では、16S rRNA という指標が97%以上一致すると「同じ種類」と見なされます)

余談ですが、増やせていないのにどうやって存在を確認するの?と疑問を持たれた方がいるかもしれませんが、微生物は16S rRNAという微生物が進化する過程であまり変化しない遺伝情報が記録されている領域(厳密には 進化的に保存されている領域と、変化しやすい領域(V1–V9)が混在)があり、多くの研究ではその16S rRNA違いから新しい微生物の存在を推定しています。しかし、16S rRNAからの推定ではバイアス・先入観が生じてしまう場合があり、ゲノム中の幅広い DNA を読むショットガンメタゲノム解析の方がバイアスが小さいとされています。

ほとんどの微生物が増えない理由

なぜ多くの微生物は増やすことができないのでしょうか?簡潔に述べるなら、本来微生物が生息している環境は絶妙なバランスが保たれているからです。 また、微生物の多くは休眠状態にあり、環境条件が揃うまで増殖のスイッチが入らないため、実験室ではそもそも増殖を開始しない場合がよくあります。 ※休眠とは、微生物が「冬眠」のような状態になっており、条件が揃うまで活動しないことを指します。

微生物がうまく増えていくためには、温度やpH、空気中の組成(どんな気体がどんなバランスで含まれているか)、植物からの因子供給、他の微生物からの因子の供給、死骸などバイオマス由来の基質の供給など多くの要因が挙げられます[2]。 もっとも一般的な微生物を増やす方法として、シャーレというプラスチック製のプレートの上に寒天を流し込んで固めて、その上に微生物をまいて増やします。。そう、皆さんの想像される通り本来の環境中で保たれているようなバランスで行われていないのです。

終わりに

今回は微生物って至ることにいるけど私たちが知っている微生物は地球上のごく一部で、ほとんどの微生物は増やすことが難しいという話でした! じゃあ実際研究ではどんな風にこの難しい微生物を取得していくのか気になる方もいると思うので未定ですが今後ご紹介できればと思います。 それではまた。

参考文献

[1] Andrew D. Steen et al., ISME, 2019

[2] 鈴木陸太 et al., 日本微生物生態学学会誌, 2024

Capillarist

Capillarist

都内の大学で研究活動を行っている大学院生。 専門は「細胞を組み立てて理解する」組織工学。 科学をわかりやすく伝えることを目指しています。

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