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2026/3/16
AI時代の歩き方——溢れる情報の中で何を信じるか【前編】

AI時代の歩き方——溢れる情報の中で何を信じるか【前編】


はじめに

どうも、キャピラリストです。

以前、「正しい情報とは何か?」という記事で、偽情報・誤情報の基本と「誰が言っているか」を確認する大切さについて書きました。

今回はその続編として、もう一歩踏み込んだ話をしていきます。

AIの登場によって、個人が持てる情報発信の能力は飛躍的に向上しました。文章の生成、翻訳、要約、リサーチ——これまで専門家や組織に頼っていた作業を、誰でもできるようになったのです。これは生産性の向上という意味では素晴らしいことですが、同時にひとつの現象を引き起こしています。

市場に出回る情報の量が、かつてないスピードで膨れ上がっているということです。

実際、世界で1年間に生成・複製・消費されるデータの量は、2024年時点で約147ゼタバイトでしたが、2025年には181ゼタバイト、2026年には約221ゼタバイトに達すると予測されています[1]。わずか2年で年間のデータ量が約1.5倍——このペースで情報は増え続けています。さらに、新たに作成されたWebページの約74%にAI生成コンテンツが含まれているという調査報告もあります[2]。つまり、データ量の爆発と、その中に占めるAI生成コンテンツの割合の増加が、同時に進行しているのです。

情報が多いこと自体は悪いことではありません。問題は、その中に不正確な情報や、正確に見えるが実は誤解を招く情報が混ざりやすくなっているということです。今回の前編では、こうした状況を踏まえて、情報を受け取る際に押さえておきたいポイントを整理していきます。情報が溢れる構造的な背景(アテンションエコノミー)、発信者の身元や専門性をどう確認するか、情報源(引用)の有無をどう見るか、そして一次情報源まで遡ることの重要性——この4つの観点から、「なぜ検証が必要なのか」を考えていきます。

あなたの「時間」が商品になっている——アテンションエコノミー

まず情報が爆発的に増えている背景を理解するために、「アテンションエコノミー(注意経済)」という考え方を知っておくと役に立ちます。

私たちは全員、1日24時間という平等な時間を持っています。この「時間」こそが、現代のインターネット経済において最も貴重な資源です。

YouTube、TikTok、InstagramなどのプラットフォームはYouTubeであれば、視聴者がそこで時間を使えば使うほど広告が表示され、収益が生まれます。つまり、あなたが動画の前に流れる広告を見てくれることが、プラットフォームにとっての「商品」です。広告を出す企業、それを掲載するプラットフォーム、そしてそれを観る視聴者——この三者の関係で経済が回っています。

クリエイターや製作者は、視聴者の注意を惹きつけることに価値が生まれるため、より刺激的で、よりキャッチーな情報を発信するインセンティブ(動機)が働きます。「最新!」「衝撃!」「知らないと損!」——こうした言葉が溢れる理由のひとつは、この構造にあります。

AIがこの構造をさらに加速させている

ここにAIが加わるとどうなるでしょうか。

AIを使えば、記事や動画の台本、SNSの投稿を大量に、しかも短時間で作成できます。つまり、一人のクリエイターが生産できるコンテンツの量が飛躍的に増えるのです。これ自体は効率化として素晴らしいことですが、結果として、あなたの24時間を奪い合う競争がさらに激しくなっています。

そして少し立ち止まって考えてみてほしいのですが——あなたの時間を使わせているのは、もはや人間だけではありません。AIが生成したコンテンツに、知らず知らずのうちに時間を費やしている可能性があるのです。

人間が作ったコンテンツに時間を使うのと、AIが自動生成したコンテンツに時間を使うのと——同じ「情報を得る」という行為でも、その質は同じでしょうか?

この問いに正解があるわけではありませんが、少なくとも「自分が今見ている情報は、誰が・何のために作ったものなのか?」と意識するだけでも、情報との向き合い方は変わってくると思います。

誰が発信しているか確認する

前回の記事で「誰が言っているか」が大事だという話をしました。今回はそこをもう少し掘り下げます。

AIを使えば、専門的な知識がなくても気になる情報を収集し、かなり高度なレベルで発信できるようになりました。これ自体は素晴らしいことです。しかし、前編の冒頭でも触れたように、AIの情報には間違いが含まれることがあります。そして、専門的なトレーニングを受けていない場合、その間違いに気づく力——つまり情報を検証する能力——が不足していることが多いのです。

もちろん、専門家だって間違えます。そもそも「絶対に正しい情報」が常に存在するとは限りません。科学の世界では、互いに矛盾する学説が複数存在し、それぞれの論理の中ではどちらにも正しさがある——そんなことは珍しくありません。ここでいう「専門家でも間違える」とは、そうした学術的な議論の話ではなく、文章を誤読したり、データの解釈を取り違えたりするヒューマンエラーのことです。

では、情報を受け取る側として何を確認すればいいのでしょうか?

最も大事なのは「身元が開示されていること」

情報の信頼性を判断する上で、最も重要なのはその発信者がどんな経歴やスキルを持った人なのかが開示されていることです。

名前、所属、経歴、専門分野——こうした情報が明示されているということは、発信者が自分の発言に対して責任を持っていることの表れです。匿名の情報が必ずしも間違いとは限りませんが、身元を明かして発信している人は、間違った情報を発信した場合に自分の評判に傷がつくというリスクを負っています。このリスクが、情報の正確性に対する一定の抑止力になるのです。

身元がわからないとき——学位や専門性は一つの手がかりになる

発信者のことをよく知らない場合、何を手がかりに信頼性を判断すればいいでしょうか? ここで、学位や専門性がひとつの参考になります。

学歴差別をする意図は全くありませんが、たとえば博士号を取得しているということは、ある程度の信頼につながるケースがあります。

博士号とはどういうものか、簡単に説明します。大学を4年間通った後、大学院という研究を本格的に行う教育課程に進みます。一般的には修士課程2年+博士課程3年の合計5年間を要します。博士号の取得には査読付き論文——つまり、同じ分野の専門家によって審査された論文——の執筆・発表が求められるケースが多く、その過程で学術的に正しい文章を書くトレーニングを積んでいます。

ここでいう「学術的に正しい」とは、その分野に精通する多くの研究者が確認したときに、「確かにそうだね」と納得できるような状態のことです。根拠に基づいて主張し、論理に飛躍がなく、データの解釈が妥当であること。こうした訓練を受けているという点で、博士号は「論理的に情報を扱う訓練を積んだ可能性が高い」という一つの目安になります。

もう少し広く言えば、高い学歴を持つ人は、学問の過程で論理的に思考する訓練を比較的多く受けている傾向があります。これもまた、信頼性を判断する際の一つの材料にはなり得ます。あくまで傾向の話であり、例外はいくらでもありますが。

学位がなくても信頼できる場合はある

一方で、高い学位を持っていなくても信頼に値する発信者はたくさんいます。

たとえば、特定の分野で長年の実務経験を積み、影響力があり、誰から見ても十分な実績を残している人。そうした人の発信は、学位の有無に関係なく信頼するに値します。実績や経験が、学位と同等——場合によってはそれ以上——の信頼の根拠になることは十分にあり得ます。

大事なのは、「学位があるかどうか」という一点だけで判断するのではなく、その人の経歴・専門性・実績が総合的に見えるかどうかを確認することです。

ただし、専門分野と発信内容が一致しているか?

経歴や実績が確認できたとして、もうひとつ注意すべきことがあります。

その方の専門性発信している内容が、どれだけ近いか?ということです。

たとえば、ある分野で豊富な経験を持つ方が、別の分野の最新の論文について発信しているケースを考えてみましょう。論理的な思考力やリサーチ能力は確かに高いかもしれません。しかし、教科書に載っているような一般的な知識ではなく、論文で報告されている最新の知見に触れる場合、違うフィールドの人がそれを正しく解釈できるとは限りません。

その分野の専門家であれば、以下のような視点を持っています。

  • この論文はまだ査読されていないプレプリント(未審査の論文)ではないか?
  • 掲載されている雑誌のインパクトファクター(注目度・影響力の指標)はどの程度か?
  • 実験デザインに弱点はないか?
  • 結論の主張は実験データに対して適切か?

一方、専門外の方の場合はこうなりがちです。

「最新の〇〇! 論文でこんなことが言われています!」

見出しや要旨だけを読んで発信してしまい、実験の条件や限界点にまで踏み込めていないケースが多いのです。どれだけ優れた経歴を持っていても、その話題の専門でなければ、正確に解釈できるとは限りません。

専門家でも間違える——だからこそ「頻度」で考える

もちろん、専門家がその専門分野について語っていたとしても、間違いが起こることはあります。しっかり審査が行われた論文であっても、後から誤りが見つかるケースは珍しくありません。

大事なのは、それがどのくらいの頻度で起こるかです。

専門家が専門分野について発信する場合と、専門外の人が最新の論文を解釈して発信する場合では、誤りの頻度に差がある傾向があります。100%正しい情報源は存在しませんが、「間違える確率が相対的に低い情報源」を選ぶことはできるのです。

情報源(引用)が提供されているか

発信者の専門性に加えて、もうひとつ確認すべきポイントがあります。 それは、情報源が提示されているかどうかです。

引用がないときに起こりうること

引用がない情報が全て間違いというわけではありません。教科書に載っているような広く知られた知識であれば、引用がなくても分野の人から見れば正しいとわかります。

しかし、問題は最新の主張が引用なしで述べられているケースです。

たとえば、サプリメントや美容の宣伝でよく見られるロジックを考えてみましょう。

  1. 「教科書的にこんな現象があります」——客観的に正しい情報の提示
  2. 「最新の研究ではこうなっています」——ここから怪しくなる
  3. 「この会社がこんな製品を開発して、こんなメカニズムで効きます」——サプリメントや美容法の紹介

1番目は問題ありません。しかし2番目以降に情報源がないとき、こう問いかける必要があります。

  • 本当に?十分に確認されているの?
  • そもそもその「最新の現象」は存在するの?
  • 安全性が確認されているの?

薬の開発プロセスから見る「最新」の危うさ

ここで、新しいものが世に出るまでにどれだけの検証が必要かを知るために、薬の開発プロセスを見てみましょう。

研究所での発見 → 前臨床開発(動物実験など) → 臨床開発(ヒトでの試験) → 市場

新薬がこのプロセスを経て市場に出るまでには、一般的に10年以上かかると言われています。

「最新の研究で効果が確認された!」と言われる多くの発見は、まだこのプロセスの初期段階にあることがほとんどです。研究所で見つかった有望な成分が、実際にヒトで安全かつ有効であるかどうかは、そこから何年もかけて検証されます。

「最新」という言葉が必ずしも「すでに検証済み」という意味ではないことを、覚えておく価値はあるでしょう。

一次情報源をどこまで遡れるか

情報源が提示されていても、もうひとつ気をつけるべきことがあります。それは、その情報源が一次情報源かどうかです。

  • 一次情報源:実験や調査を行った研究者自身が発表した、大元のデータや論文
  • 二次情報源:一次情報源を引用・要約した記事やレビュー論文
  • 三次情報源:二次情報源をさらに引用した記事やまとめ

教科書的な内容であったり、幅広く知られていたりすることであれば、一次情報源でなくても正しい情報である可能性は高いです。多くの人が繰り返し引用し、検証してきた知識だからです。

しかし、もし読んでいる内容が教科書には載っていない情報新しい知見であれば、一次情報源まで遡って確認する必要があります。

特に、こんな表現が使われている場合は注意が必要です。

  • 「新常識!」
  • 「最新科学が明らかにした…」
  • 「研究で判明!」

こうした言葉自体が間違いというわけではありませんが、元となるデータがどこにあるのか、そのデータはどのような条件で得られたものなのかを確認する合図だと捉えてみてください。

余談:AIの信頼度はプラトーに達するのか?

最後に、筆者の個人的な仮説をひとつ。エビデンスに基づいた主張ではないので、あくまで「こんな見方もあるかもしれない」という思考の共有です。

AIの信頼度は、ある時点でプラトー(横ばい)に近づくのではないか?と考えることがあります。

その理由は、AIが参照する情報源の構成にあります。現在、インターネット上にはAIによって生成されたコンテンツが急速に増えています。今後、AIが学習するデータの中にAI生成コンテンツが含まれる割合が増えていくと、情報の「質」が徐々に薄まっていく可能性はないでしょうか。

もちろん、これに対する反論は十分にあります。AIの計算能力やアルゴリズムはどんどん進化しており、情報の選別能力も向上していくことが予想されます。この仮説が正しいかどうかは、正直なところ筆者にもわかりません。

ただ、ひとつ言えることがあるとすれば——仮にAIがどれだけ進化したとしても、最終的に情報を受け取って判断するのは人間だということです。人間が情報を検証する力、つまり情報リテラシーの重要性は、AIの進化とは別の次元で残り続けるのではないかと思っています。

まとめ

今回の前編では、AI時代に情報と向き合うために知っておきたい4つの観点を整理しました。

まず、私たちの「時間」が商品になっている- アテンションエコノミーの構造。情報は読者の利益のためだけでなく、注意を引くこと自体を目的に作られている場合があります。

次に、発信者の学位や専門性が開示されているか。経歴・専門性・実績が確認できることが信頼の第一歩であり、学位はあくまでその中の一つの指標に過ぎません。

そして、情報源が提示されているか。特に「最新」と謳われる情報に引用がない場合は注意が必要です。

最後に、一次情報源まで遡れるかどうか。教科書的な内容であれば二次・三次情報源でも問題ありませんが、新しい知見ほど大元のデータを確認する意識が重要になります。

「理屈はわかった。でも具体的にどうやって検証すればいいの? 正直面倒だし…」

その気持ち、よくわかります。後編では、AIを活用した実践的な検証方法を、レベル別に紹介していきます。ファクトチェックのハードルは、思っているよりずっと下げられます。ぜひ後編もご覧ください。

参考文献

[1] DemandSage (2026). "Big Data Statistics 2026 (Growth, Trends & Market Size)." https://www.demandsage.com/big-data-statistics/

[2] Stan Ventures. "74% of New Web Pages Now Contain AI-Generated Content." https://www.stanventures.com/news/new-web-pages-now-contain-ai-generated-content-2727/

※その他の内容は筆者の経験と考察に基づいています。前回の記事「正しい情報とは何か?」もあわせてご参照ください。